2013年10月14日月曜日

西洋版画の流れ(神奈川県近代美術館 鎌倉別館)

JR北鎌倉駅から、建長寺などを巡り、鎌倉の市街地の方向へ下って、鶴岡八幡宮まで間も無くの辺りまで歩いてくると、右手に見えてくるのが、神奈川県近代美術館 鎌倉別館だ。

私の好きな美術館の一つで、小規模ながら、味わいの深い展覧会を企画している。

今回は、西洋版画の流れ、と題して、当館が所有する、数多くの版画が展示された。

ブリューゲル、ジャック・カロ、ポントルモ、ゴヤ、マックス・クリンガー、ピカソ、モロー、シャーガールなどの作品が展示されていた。

ブリューゲルの7つの大罪を描いた作品は、フランドル地方の諺にちなんだと言われている、不思議で不気味なイメージが、虫眼鏡でないとよく見えないような細かさで表現されていて、ずっと見つめていると、文字通り、時間の経つのを忘れてしまう。

ピカソのフランコ光と影、という作品は、スペインの独裁者のフランコ将軍を強烈に風刺した作品。民衆の悲惨な姿と、バカっぽく描かれたフランコの姿の対比が、ピカソらしい。

しかし、この展覧会の目玉は、ジゼル・ツェラン・レトランジュの銅版画。寡聞にも、彼女のことは、これまで、まったく知らなかった。

1927年にフランスの伯爵家に生まれ、絵画と素描を学び、ドイツ人の詩人として名高いパウル・ツェランとの結婚後、銅版画を始めた。

彼女の銅版画が、こうしてまとまって展示されるのは、国内では初めてのことだという。その作品は、強烈な印象を、私の心に残した。

初期や中期の作品は、抽象的な作品が多い。線を使って、不思議な造形美を生み出している。線は、細かったり、太かったり。時に、人の列や、空を飛ぶ鳥の群れを連想するような作品もある。

しばらく見つめていると、中国やイスラムの書道のようにも見えてくる。単純なイメージの中に、実に多くのことが隠されているように思える。

1970年には、心の病にかかっていた夫がなくなり、ジゼルの作品には、自然の風景を写したものが多くなった。ジゼルも1991年にパリで亡くなった。

そのジゼルの不思議な世界に魅了されたまま、会場を後にした。

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