2013年5月5日日曜日

百花繚乱 − 花言葉・花図鑑 − (山種美術館) 

山種美術館では、毎年この時期になると、花をテーマとした収蔵品展を開催する。

展覧会は、3つのテーマに分けられていた。

第1章は、人と花。

狩野常信の明皇花陣図。玄宗皇帝と楊貴妃が、宮廷の女性に花を持たせて、両陣営に分けて戦わせている様子を描いている。これは、中国に古く伝わる風習とのこと。

女性と花の関係、そして、花が持っている呪術的な側面が垣間見える。

森村宜永の夕顔。源氏物語の夕顔の1シーンを描いている。光源氏の元に、夕顔の家の者によって和歌を添えた夕顔が届けられる有名なシーン。

光源氏も、夕顔も、描かれていないが、源氏物語を知る人間は、この絵を見ただけで、夕顔の帖の物語世界が、走馬灯のように蘇る。夕顔は、やがて、六条御息所の生き霊によって、呪い殺されてしまう。

源氏物語は、夕顔の他にも、藤壷、葵、紫など、登場人物が花の名前で呼ばれることが多い。

第2章は、花のユートピア。

ここでは、現実ではあり得ないような風景の中で花々が描かれた、そんな絵の数々が展示された。

鈴木其一の四季花鳥図。左右の屏風に、四季を代表する花々、動物や鳥が描かれている、日本画ではポピュラーな題材。

春の花と秋の花が並んで咲いているなど、明らかに、現実にはあり得ない。日本の絵師達にとっては、現実を再現することが、絵を描く目的ではなかった。

荒木中畝の四季花鳥。春、夏、秋、冬の4つの色鮮やかな花々と鳥たち。パンフレットやポスターのも使われている、今回の目玉となる作品。

春、夏が色鮮やかなのは、いうまでもないが、ここでは、秋、冬もそれに負けじとカラフルに描かれている。秋は紅葉の赤、冬は雪の白と葉の緑、水面の青を上手く使っている。

第3章は、四季折々の花。

花は美しさの象徴だが、季節を表す象徴としても絵の中で表現される。

奥村土牛の吉野。遠くまで連なる吉野の山並みに、まるで霞のように、桜の花が描かれている。

奥村は、この絵を描いているとき、まるで歴史画を描いているようだと、感じたという。日本の歴史を通して愛され、愛でられてきた吉野の桜は、春という季節感さえも、飛び越えてしまっている。

会場の一角に、西洋絵画の画家達の作品が展示されていた。梅原龍三郎の向日葵、中川一政の薔薇など。描かれている題材も、絵の具も、技法も異なっている花の絵は、花を描くということの、本質的なものを考えさせられる。

横山大観の寒椿。金箔の背景に、薄い水墨で竹が、手前に小さな寒椿が描かれている。他の絵に比べて、まったく色鮮やかではない絵だが、その小さな白い花びらと黄色い雌しべは、実際以上に、この絵の中では大きく見える。

これぞ、横山大観の魔術だ。

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