2013年5月25日土曜日

貴婦人と一角獣展(新国立美術館)

実は、この展覧会には、行く前に、行こうかどうか、迷っていた。

西暦1500年頃に作成された、フランスの宝と言える貴重なタピスリーであることは知っていたが、しょせんは、タピスリーではないか・・・

しかし、実際に会場に足を運び、そのタピスリーを目の前にして、驚きを隠せなかった。それはタピスリーというよりは、記号の森のようだった。

タピスリーは、6枚からなる。触覚、味覚、嗅覚、聴覚、視覚、そして、我が唯一の望み、と紹介されていた。

始めの5つについては、それぞれの感覚を象徴する絵が織られている。

触覚では、貴婦人が一角獣の角を掴んでいる。味覚では、貴婦人が食べ物に手を伸ばしている。嗅覚では、貴婦人が花を手にしている。聴覚では、貴婦人がオルガンを演奏している。そして、視覚では、貴婦人が鏡を持って、その鏡に一角獣の姿が写っている。

最後の、我が唯一の望み、という不思議な名前のタピスリーでは、貴婦人が、宝石箱の中から、宝石を選んでいる。

それぞれの絵は、背景は赤、中央に丸く緑色に仕切られた領域、貴婦人と一角獣、ライオンと小動物、4本(一部2本)の木と無数の草花、という共通のイメージを持っており、それが、6枚全体としての統一感を持たせている。

中央の緑色の円形の領域は結界か?一角獣は何の象徴か?4本の木の意味は?子犬やウサギ、猿などは何を意味しているのか?我が唯一の望みとは、富に囲まれ暮らすことなのか?

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大きな丸いスペースに、来場者を取り囲むように展示された6枚の大きなタピスリーの中で、頭の中には次から次への疑問がわき起こってくる。

600年という時の流れが、そこに描かれているものの意味を、洗い流してしまったようだ。

会場のあちこちには、絵の内容を解説するパネルが数多く並べられていたが、そうしたパネルを見るよりは、このタピスリー自体に目を向けた方がよいだろう。

これらのタピスリーの下絵を描いたのは、『ベリー公のいとも華麗な時禱書』を描いたのと同じ画家だという。確かに、絵の感じはよく似ている。

そして、絵画そのものではなく、それが織り上げられ、タピスリーになっていることで、絵画とはまったく違った作品になっている。

タピスリーという存在だけが、作り出せる芸術空間が、そこにはある。

画家のイメージと、その下絵を丹念に織り上げた職人達が作り上げたこの記号の世界は、他のどの芸術家が作り上げた世界に劣らず、見るものの心に強烈な印象を残した。

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