2013年5月23日木曜日

「もののあはれ」と日本の美(サントリー美術館)

本居宣長の”もののあはれ”という言葉をキーワードに、日本の美を鑑賞する、というテーマのサントリー美術館での展覧会。

会場に入り口付近に、その本居宣長の『紫文要領』と『石上私淑言』の直筆本が展示されていた。その文字は、実に丁寧に書かれてて、宣長の実直な性格が伺える。

その著書のテーマになっている、源氏物語を描いた絵画や、和歌の書や琳派の作品、また蒔絵の工芸品や、仁清や乾山などの色鮮やかな陶器などが展示されていた。

平安時代に描かれた病草子断片「不眠症の女」。皆が寝静まっているのに、一人の女性が、眠れずに、起き上がっている。口からは、詞書のようにも見える、白い息のようなものが漏れている。

物の怪に憑かれた、ということなのだろうか。花鳥風月ではない、違った日本文化の一面だ。

長沢蘆雪の月夜山水図。個々の対象を細かく写実的に描くのではない、ぼかしの技法を駆使して、全体をぼんやりと描いている。月夜のおぼろげな雰囲気を、実に良く表現した作品。

江戸時代、17世紀に描かれた月次風俗図屏風。六曲一隻の屏風の、京都の街角の風景の中に、12ヶ月の毎月の代表的な行事が、克明に描かれている。

誰が書いたとも分からず、美術的には、名作という訳ではないが、当時の人々の日々の暮らしの様子が伺え、一つ一つの行事を楽しんでいるうちに、時間が経つのを忘れてしまう。

歌川貞房の東都両国夕涼之図。浮世絵だが、両国橋の上を行き交う人々が、文字通り豆粒のような大きさで、丸くその頭だけ、無数に描かれている。

その群衆の中では、誰も身動きできないに違いない。そもそも、それほど多くの人が乗っていたら、両国橋がもつわけがない。

本居宣長の”もののあはれ”で始まった展覧会だが、次第に、宣長が考えていた方向とは、展示の内容がずれてきているように感じられた。

まあ、そうした意味も合わせて、この展覧会は、あはれ、であったということができるのかもしれない。

0 件のコメント:

コメントを投稿