2013年5月19日日曜日

篠田桃紅の墨象(菊池寛美術館)

この篠田桃紅の展覧会は、実に、衝撃的な内容だった。

篠田桃紅の名前は、寡聞にも全く知らなかった。1913年に大連で生まれ、この3月で100才を迎え、今も現役で作品を制作し続けている。

篠田は、書家としてその活動を開始したが、この展覧会での作品を見る限り、書家としての枠組みを完全に超えてしまっている。パンフレットでは、その作品を、水墨肖抽象画と紹介していた。

Poetry in Motion/線という作品では、和紙の上に文字のような、細い、流れるような線が並んでいる。一部の文字は、判別が可能だが、まったく検討もつかない、文字のような、模様のような形が並んでいる。

会場の半ばくらいに来るまでには、この篠田桃紅の作品を、どうしようもないほど、愛おしく感じてしまう、そんな気分になっていた。

篠田は、墨というものを通じて、文字の持っている不思議さ、その背景に隠されている、形と意味の神秘さ、というものを、改めて思い起こさせてくれる。

Sinence/静寂という作品。画面の右半分は、黒目の、左半分は薄目の灰色に描かれている。それぞれ単色ではなく、微妙に変化している。

その不思議な色彩感覚は、まるで、マーク・ロスコの作品のように、見るものを、全く違った世界に、誘い出しているようだ。

篠田は、背景に、よく銀箔を使う。金箔ほどの派手さはなく、落ち着きを感じさせる。見る位置を変えると、光の微妙な変化で、全く違った作品が現れてくる。

会場の最後に展示されていた、Saga/物語。

この篠田の作品を見ていると、文字、線、形、色の、根源的な美しさを、心の底から、喜びとして、じわじわと、感じることができる。

いやはや、とんでもないものに出会ってしまった。

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