2013年8月17日土曜日

大倉コレクションの精華Ⅱ(大倉集古館)

大倉グループのコレクションを一同に紹介する企画の第2段は、近代日本画の名品展。

出展された作品の多くは、昭和4年にローマで開催された、日本美術展に展示されたもの。この展覧会は、大倉グループの全面的なバックアップの元で行われた。

当時のイタリアのムッソリーニ政権との友好という意味合いも強かっただろう。

そうした政治的な背景を知ると、何となく、複雑な気持ちを抱いてしまうが、目の前に現れた作品は、文句なく、美しいものばかりだった。

横山大観の”夜桜”。大観の数ある作品の中でも、最も鮮やかな作品の一つだろう。夜でありながら、篝火の中に、白い桜と、緑の松が、華やかに浮かび上がっている。

近づいてみると、桜の花びらのひとつひとつ、篝火の火の粉のひとつひとつまで、克明に描いている。

大観は、このローマでの日本美術展に深く関わり、そのポスターを描き、オープニングに当たっては、わざわざローマ入りし、開会式で挨拶を行った。

その大観の夜桜の隣には、前田青屯の”洞窟の頼朝”、という作品が、大観に対するように展示されていた。伊豆での挙兵が失敗に終わり、少数の人数で、洞窟に隠れていた、という歴史の一場面を描いている。

頼朝をはじめとして、周りに集う一人一人の、鎧の表面に編まれた紐まで、細かい筆先で描いている。中心の頼朝の朱色の鎧と、その引き締まった表情が、頼朝の強い意思を、象徴している。

下村観山の”不動尊”。不動尊とその脇尊を、黒地で描き、目鼻などの線を、金の絵の具で描いている。何とも、大胆でダイナミックな作品。

一転して、墨一色の作品。田能村直入の”万里長城図巻”。こちらは、ローマ展への出品作ではない。直入は、高名な田能村竹田を継いだ一番弟子。竹田と同じく、豊後竹田の出身。その丹念な筆さばきには、時間の立つのを忘れてしまう。

ローマ展のことなど、今日では覚えている人など、それほど多くはないだろう。美しい日本絵画を楽しみながら、歴史の一ページにも触れた経験も味わえる、不思議な展覧会だった。

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