2013年9月21日土曜日

ルーブル美術館展 地中海四千年のものがたり(東京都美術館)

東京、上野にある東京都美術館で開催された、ルーブル美術館展は、少し趣向が変わっており、特定の画家や、時代をテーマにして物ではなく、地中海という広い地域の四千年の歴史を、出土品や美術品で振り返るというもの。

ルーブル美術館にある、8つの美術部門がすべて関係した初めての企画であるという。

あまり有名な画家や芸術家の作品は、それほど多くは展示されていない。ほとんどは、古代から中世にかけて、地中海の各地で製作された食器や彫像などの工芸品だった。

その意味では、個々の展示品を楽しむというよりは、それらの全体を通じて、地中海とはそこに暮らす人々にとってどんな場所だったのか、を振り返る、そんな内容の展覧会だった。

古代の地中海地域において、最初に大きな文明を築いたのはエジプトだった。そのエジプトから、海を通じて、様々な物や、イメージが地中海一帯に広がっていった。

ロドス島やキプロス島で発掘された、エジプトの神々をかたどった様々な彫像。古代のガラスはまだ透明ではないが、やはりエジプトなどの中東地域や、地中海の島々から見つかっている。それらの品々は、当時の地中海の状況を、わずかながら、現代に伝えている。

エジプトが衰退すると、ローマとフェニキア人のカルタゴが、地中海の覇権をかけて争った。最終的にはローマが勝利を収め、カルタゴの痕跡を徹底的に消し去ってしまった。

カルタゴが、いかに巨大な存在であったかと言うことが、現代では、よくわからない。北アフリカのチュニジアやモロッコで発掘された石碑などの出土品が、わずかにその面影を伝えている。

勝者のローマは、数多くの大理石の彫刻を、現代にまで残している。私たちが知っている歴史は、あくまでも勝者に歴史であるということが、その立ち並んでいる大理石の銅像から、痛いほど、思い知らされる。

そのローマも衰退の時期を迎え、7世紀には、アラビア半島に起こったイスラム勢力が、地中海の南地域と、スペインのほとんどをその勢力下に治めた。

偶像崇拝が禁止されたイスラム工芸の、その幾何学的な模様が、実に美しい。そうした模様を見ていると、人間や実際の景色を描いた偶像が、いかに不完全であるのか、ということがよくわかる。

キリスト教国とアラビア勢力の間で争われた戦いの中で、地の利を生かし、地中海の主となったのは、小国のヴェネツィアだった。この時代になると、ようやく絵画が登場してくる。

やがて、オスマントルコがコンスタンチノープルを征服し、地中海の覇者となった。スイス人のリオタールという画家は、ナポリからイスタンブールにかけて旅行し、そのままインスタンブールに止まって、その地の人々の姿などを描いた。

当時のヨーロッパは、オスマントルコの脅威に怯えながらも、トルココーヒーや、エキゾチックな文化などを楽しんでもいた。また、トルコ人がヨーロッパの工芸品を好んだこともあり、工芸品の輸出先でもあった。

会場の最後の方に、コローやシャセリオーのオリエント趣味の絵画が展示されていたが、それまでに目にした様々な古代や中世の工芸品や彫像などを目にした後では、そうした作品が、あまり心に入ってこなかった。

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