2013年9月22日日曜日

中村不折コレクション 江戸ワールド(書道博物館)

中村不折の旧宅跡地にある、書道博物館。そこで、およそ3ヶ月、3期に分けて開催された、中村不折コレクション 江戸ワールド。

受付のすぐ近く、1階の一番奥に、一つの文字が、人の顔ほどあろうかという、大きな字で書かれた、克己復礼の文字。

己に勝つ、その上で、礼儀を振り返れ、という意味だろうか。現代に住む人々が、忘れてしまっていることのようだ。

江戸城の松の廊下で、主君の浅野内匠頭が、吉良上野介に斬りつけた、という事件の一報を、赤穂にいる大石内蔵助に知らせた、片岡源五右衛門の手紙。

現代であれば、電話やメールで知らせるようなことを、当時は手紙で伝えた。手紙には、それを書いた人の気持ちが、にじみ出ているように見える。

徳川家康はじめ、代々の徳川将軍に仕え、儒教の普及に貢献した林羅山の行書五言絶句軸。その文字の印象は、とても柔らかく、政治の世界に生きた人間の書とは、とても思えない。

小林一茶の2つの俳画軸。決して、達筆とは言えないが、素朴で実に味のある書。そして、一筆書きのように、自らの姿をシンプルに描き、画も一茶、と書き加えている。

良寛の書。草書で書かれた二つの七言絶句の掛け軸。いずれも、よく知られた良寛の独特の書。何が書いてあるか、全くわからない。

同じ良寛の書巻には、あいうえお・・・とひらがな五十音が書かれている。こちらは、誰にでもわかる文字で書かれている。

徳川光圀の草書七言二句軸。草書とあるが、一字一字をしっかりと、書き切っている。機をてらわない、光圀という人物の性格が、よく現れている。

寛政の改革を行った、松平定信の楷書「楽則」軸。楽しいこと、を書き連ねた書。月夜を歩く、名君が治める国に住む、朝に鳥の声を聞く・・・などの言葉が並んでいる。厳しい政治家の別な側面が垣間見える。

井伊直弼の行書五字軸。筆にたっぷりと墨を染み込ませ、太くはっきりとした字で書かれた書。期せずして彦根藩の藩主となり、その後、時代の変わり目に江戸幕府の大老を務め、桜田門外に無念の死を遂げた。その真っ直ぐな性格が、字からも見てとれる。

谷文晁に絵を学んだ渡辺崋山。その草花図軸は、その波乱の人生が想像できないほど、繊細で美しい。

伊藤若冲の描いた松尾芭蕉。薄墨で、実に当たり前に芭蕉を描いている。個性的な若冲のイメージからは、想像できないような、あまりに普通な水墨画。若冲の別な側面を見た気がした。

正岡子規が、この博物館を作った中村不折に書いた手紙が展示されていた。友人のために、不折に絵を書いてくれないか、と依頼している。今日に読んでも、十分に読めるほど、わかりやすい字で書いている。

この博物館の隣には、子規が住んでいたという子規庵がある。今は、ラブホテル街となってしまったこの辺りは、かつては、違った雰囲気の町だったのだろう。

3ヶ月に渡り、3度訪れたこの展覧会。江戸時代の武士、宗教家、文人、僧侶、俳人など、様々なひとびとが書いた書を見た。

文字通り、書は、その人をよく表す。

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