2013年6月16日日曜日

近代の日本画展(五島美術館)

五島美術館が所有する日本近代絵画のうち、およそ50点ほどが展示された展覧会。

狩野芳崖、橋本雅邦、竹内栖鳳、横山大観、下村観山、川合玉堂、上村松園、鏑木清方、小林古径、川端龍子など。

中でも、横山大観が富士を描いた、7点の作品は、第2展示室にまとめて展示されていた。折しも、富士山が世界遺産に登録されることが内定した、ということが明らかになってから間もなくのことであった。

そのなかの、"日本心神"という富士山の図は、縦1.2メートル、横1.8メートルの大作。富士の山頂付近を、墨の黒と余白だけで表現し、背景の空には、薄く金彩を施している。

この絵が書かれたのは、昭和15年。日本は、すでに中国との戦争状態にあり、アメリカとの開戦も間近だった。

画家の真意は、今となっては知るべくもないが、ただ単純に、美しいと感じられない、複雑な背景が、この絵にはある。

川端龍子の"富貴盤"。縦80センチ、横1メートルの画面いっぱいに、白い牡丹の花が2輪描かれている。実物よりも明らかに大きい。花びらの質感が、白の微妙な表現で、見事に描かれている。

この絵が描かれたのは、昭和21年。時代の重しが外れたような、そんな開放感を感じさせる、ダイナミックな絵。日本画という枠を、完全に飛び越してしまっている。

牡丹、あるいは花、という生き物、あるいは物、が秘めている無限のような、得体の知れない物を感じさせる。ジョージア・オキーフの一連の作品を連想させる。

小茂田青樹の"緑雨"。画面一面が、文字通り緑色に染まっている。芭蕉の葉が画面の上部に生い茂り、下の地面には、一匹の小さな蛙が、うれしそうに空を見上げている。雨の雫を、白く細い真っすぐな線で描いているのが新鮮。

絵画の他に、中国の清時代の硯、明時代の墨なども合わせて展示されていた。

弘法は筆を選ばず、という言葉があるが、多くの絵師たちは、硯や墨を選んできた。絵というものが、画家の技術だけで成立しているのではないことが、そうした展示物から伺えて、興味深かった。

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