日本民芸館の2階の大展示室の壁一面に展示されていた、アイヌの衣服に編まれた文様の美しさ、不可思議さは、心に深い印象を刻んだ。
下地の上に、ある程度の幅を持った線で、四角形の文様が描かれている。その上に、細い線が刺繍のように、弧を描くように縫い込まれている。
その細い線は、その下の太い線をはみ出ることはない。その微妙な重なり具合が、単純な形でありながら、芳醇な印象を与える。それは、音楽のハーモニーのようだ。
現代人からみれば、それは、衣服としてしか見えない。しかし、アイヌの人々にとっては、そうした人間が作ったもの中にも、霊的なものが見えていたようだ。
その美しくも神秘的な模様には、霊的な力、呪術的な力が宿ると考えられていた。
その他の展示室には、アフリカ、アメリカ、アジア各地の民芸品が展示されていた。
中でも台湾の先住民族の、貝を使った衣服の展示が目を引きつけた。
貝を小さく加工して、ビーズのようにしてある。その小さいビーズを糸でつなぎ合わせ、それを衣服の上にビッシリと並べている。
ビーズの数は、あまりに多く、とても短時間で数えきれるものではない。無数としか言いようがない。一枚の衣服を作るのに、一体どれほどの時間がかかったのか、想像もできない。
それは、明らかに、単なる衣服ではない。アイヌの人々が、衣服に感じたものと、同じような気持ちを、この台湾の先住民族の人々も、感じていたにちがいない。
私には、そうした品々を、美術品や工芸品のようにしか、見ることはできない。この日ほど、私は、自分の心がいかに貧しいかを、痛感したことはなかった。
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