2013年6月8日土曜日

池袋モンパルナス(東京芸術劇場)

池袋は、戦前、多くの芸術家がアトリエを構えた、芸術家のたまり場だった。その様子は、池袋モンパルナス、と呼ばれていた。そうした芸樹家達に焦点を当てた展覧会。

1930年ごろの池袋は、長崎村という地名だった。村という名前からも想像できる通り、田中佐一郎や春日部たすくの描いた当時の長崎村は、見るからに田舎、という雰囲気だ。

1940年代になると、ヨーロッパの影響を受けて、日本にもシュールレアリズムの画家が現れる。植物の先端をクローズアップで描いた、寺田政明の”発芽”。明らかにアンリ・ルソーを真似した榑松正利の”夢”という作品などを見ると、池袋にも、多くのそうした画家がいたことがわかる。

展覧会の作品の中でも、とりわけ深い印象を残した、1945年4月の池袋への空襲直後の様子を描いた、吉井忠の”ひとびと”。焼け野原の風景に中で、命を落とした家族を抱いて、某然と佇む人々の姿を描いている。

人々の配置には、吉井の構図へのこだわりが見て取れる。この悲劇を、どのように描けば、その悲惨さが効果的に、見るものに伝わるか。吉井の格闘の跡が伺える。

かつて、川越の丸木美術館にある、原爆の図をみたことがあった。その印象は、強烈に心の中に残っている。その丸木夫妻も、かつて池袋にアトリエを構えていた。

丸木俊の”ロシア人形”は、愛くるしい絵画。丸木位里の”グランドキャニオン”は、世界的に有名な観光名所を、黒とピンクを中心とした大胆な色使いで描いている。

井上長三郎の”ドストエフスキーの庭”という作品。井上がロシアを訪れた際に、有名な作家の住まいの跡を訪ねた時のスケッチをもとに描いた作品。意外と小さな平屋の建物が、ロシアの緑の大地の中に、静かな雰囲気で描かれている。

ドストエフスキーの深遠で、重厚な小説世界からは想像できない程、その住まいは、穏やかだった。

池袋で、かつて暮らした経験のある人間にとって、このささやかな展覧会は、ノスタルジーをくすぐる、何とも甘酸っぱい、不思議な雰囲気の展覧会であった。

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