2013年6月22日土曜日

北斎と暁斎 奇想の漫画(太田記念美術館)

浮世絵ファンにとっては、聖地とも言える、浮世絵太田記念美術館で、北斎と暁斎 奇想の漫画、という名の展覧会が開催された。

葛飾北斎と河鍋暁斎という、浮世絵師の中でも、とりわけ個性的な二人を取り上げ、その奇想から生まれた、作品の数々を紹介するもの。

海外に、この二人が初めて紹介された頃は、北斎と暁斎は師弟関係にあったと紹介されたという。

暁斎は北斎を尊敬し、一目を置いていたが、直接の師弟関係にはなかった。しかし、この展覧会を見ると、西欧人に、そのように誤解されるのも、無理のないようにも思えた。

二人の共通する要素の一つは、その躍動感だろう。歌麿や広重は、静的なイメージがあるが、北斎の絵にも、暁斎の絵にも、まさにその瞬間を切り取ったような躍動感が、絵の中に感じられる。

北斎漫画の、人物の描写を見ると、どのようなポーズ、表情を描けば、動きのある絵が描けるのか、北斎が研究し尽くし、完全に自分のものにしていたことがわかる。

一方の暁斎も、『暁斎鈍画』という『北斎漫画』を多分に意識した画集の中で、同じようにいろいろな人々の動きのスケッチを描いている。

暁斎の絵には、ガイコツがよく登場する。それは、ガイコツそのものの、絵としての奇抜さ、面白さもあるが、人間を描く際に、その骨格を意識していた、という背景もある。

暁斎の生きた時代は、幕末から明治にかけての開国の時代でもあった。ヨーロッパの絵画技法の影響もあったのかもしれない。

その二人の肉体表現へのこだわりは、フランシス・ベーコンが、人体写真を多く撮影していた、ということを思い出させた。

北斎と暁斎の奇想ぶりを最もよく表したのが、妖怪絵だろう。

ハッキリ言って、二人の描く妖怪は、決して怖くは亡い。むしろ、ユーモラスで、思わず頬が緩んでしまう。

暁斎の有名な百鬼画談は、今回初めて目にすることができた。伝統的な百鬼画談の伝統を踏まえつつ、個々の要素に、暁斎らしさが、ふんだんに盛り込まれている。

北斎も暁斎も、こうした奇想の絵ばかりを書いていたわけではない。いわゆる正統的な多くの作品も描いている。

世界的に見ても、これほど多様な絵画世界を築き上げた画家は、他にあまり見当たらない。

私は、北斎こそが、世界で最も偉大な画家だと思っているが、その思いを、また強くした展覧会であった。

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