2013年6月30日日曜日

ファインバーグ・コレクション展(江戸東京博物館)江戸絵画の奇跡

研究者同士であるという、アメリカのファインバーグ夫妻が、1970年代以降に収集した、江戸絵画を中心としたコレクションを展示した展覧会。

最初のコーナーは琳派。

会場の入り口で、俵屋宗達の虎図が、来場者を迎える。ユーモラスな虎だが、よくみると、細かい毛の一本一本を丹念に描いている部分もある。宗達の、軽さと繊細さを併せ持った特徴が、よく表れている。

鈴木其一の山並図小襖。遠くまで連なる山並みを、金箔と緑色の巧みなバランスで描いた、小品だが、琳派らしさが発揮された、素晴らしい作品。

続いては、文人画のコーナー。江戸時代の町人達は、明代や清代の中国で盛んになった文人の文化に大きな憧れを抱いていた。

池大雅の豊年多祥図。中国の古代の詩集、詩経の中の豊年という詩に描かれている世界を、3枚の掛け軸に仕立てたもの。農作物が豊作だったことを、天に感謝する、という内容の詩。大雅の描く世界は、薄い緑色が基調で、ほのぼのとした雰囲気が漂っており、まさしく理想郷のよう。

与謝蕪村の寒林山水図屏風。文人画には珍しく、金箔に黒い墨一色だけで描かれている。山奥にひっそりと佇む山荘に戻る、一人の文人の姿を、雄大な景色の中に、ポツンと描き、まさしく、文人の理想とする世界観が、そこには描かれている。

岡田米山人の蘭亭曲水図。王羲之の蘭亭序の主題による絵画だが、線と淡いパステル調の色を基調とした独特な世界観で、描かれている。

続いては、円山応挙に始まり、明治の竹内栖鳳にまで連なる京都代表する流派の円山四条派のコーナー。

円山応挙は、狩野派のもとで絵を学んでいたが、その形式的な手法に飽き足らず、より対象そのものをそのまま描く、写生を極めるようになっていった。江戸時代が成熟するに連れて、合理的な精神が生まれた来たのだろう。

布地に描かれた、鯉亀図風炉先屛風。応挙の得意な鯉。水の中を泳ぐ鯉を、その鱗の一枚一枚まで描いている。神業、ということばが、この絵にはピッタリする。

江戸時代の絵画ではないが、竹内栖鳳の死んだ鶴図。ヨーロッパを訪れて、西洋絵画に大きな影響を受けた栖鳳は、静物画の画題としてよく取り上げられる、吊るされた野鳥をヒントに、この絵を描いた。

おそらく、死んだ鶴をこのように吊るすことは、実際はないだろう。栖鳳らしい、ユーモアも感じられる。しかし、その技術力には、ただただ舌を巻くばかり。

4つ目のコーナーは、奇想派。まず、狩野山雪の山水画の屏風絵が、目に飛び込んできた。

遠くに高い山々が見え、湖の湖畔に、大きな屋敷が描かれている。題材は、伝統的な山水画だが、その表現はまさに奇想。岩山の表現などは、まるで、別な星の光景のように見え、SF映画の1シーンのようだ。

伊藤若冲、曾我蕭白などの作品もあった。長沢蘆雪の3幅の拾得・一笑・布袋図は、真ん中に、師匠の応挙譲りの愛くるしい子犬を挟んで、左に拾得、右に布袋を描いている。水墨画は、書の延長、といわれるが、それを証明するような、見事な筆さばきを楽しめる。

そして、最後のコーナーは、浮世絵。いわゆる版画の浮世絵ではなく、浮き世を描いた、という意味合いだが、菱川師宣、歌川豊国、葛飾北斎の絵などが並んでいた。

ファインバーグ夫妻は、日本語はほとんど分からないという。しかし、だからこそ、偏見に捕われず、ただ自分たちが美しいと感じた作品のみを購入してきたのだろう。

そのコレクションの質の高さは、この展覧会場を訪れた人は、誰でも納得するだろう。

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