2013年6月2日日曜日

レオナルド・ダ・ヴィンチ展 天才の肖像(東京都美術館)

レオナルドの名を冠する美術館を、開催することは自体は簡単だが、それが成功したといえるかどうかを判断するのは、難しい問題だ。

なにしろ、油絵の作品については、極端に作品数が少ない。レオナルドの油絵の作品が1枚でも展示されればいい方で、中には、真作が一枚も展示されない展覧会もある。

果たして、この展覧会はどうだったのか?

この展覧会には、音楽家の肖像、というレオナルドの作品が出品された。この作品は、ポーランドのクラクフにある白貂を抱く貴婦人、を描いていたのと同じ頃、ミラノのスフォルツァ家に使えていた時の作品と言われている。

しかし、この作品が、本当にレオナルドの作品かどうかということは、長い間の議論があり、19世紀の間は、真作とは考えていられなかったという。

一目見たとたんに、これは完成作ではないということが分かる。表情はレオナルドらしい、スフマートの技法で描かれており、その巻き毛の髪の毛は、初期の有名なキリストの洗礼の天使の巻き毛を思い起こさせる。

しかし、首から下の衣服は、単に色を塗っただけのように見え、赤い鮮やかな帽子も、簡単に陰翳だけを表現している。

絵の一番下に描かれた右手の手先、その握っている楽譜はしっかりと描かれている。楽譜には、音符まで描き込まれている。

この展覧会のもう一つの目玉は、アトレティコ手稿。レオナルドが残した膨大な手稿の一部のうち、22枚が展示された。

蔵書目録、デッサンのようなスケッチ、永久機関の設計図、飛行機の翼の設計図、など、様々な分野の手稿が、レオナルドの関心の高さを伺わせる。

その他、面白い展示内容としては、レオナルドの蔵書目録から、勿論レオナルドが実際に所有していたものでないが、同じ時代、あるいは後の時代に出版された本などが出展された。

東方見聞録、フィチィーノのプラトン神学、農政論、軍事論集など。そうした蔵書からも、レオナルドの多方面への感心の広さが見て取れる。

レオナルドのことを、ルネサンスの万能人と紹介することが多い。万能人だとは思わないが、当時の知的状況をその全身で吸収し、幅広い感心を、自らが特異とした絵画、という形式で表現しようとした希有の人物、であるということは、間違いがないようだ。

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